「神像」

看板は善妙神

新春特集陳列
京都国立博物館(1/2-3/25 2007) 3/25観覧


展示作品は以下のとおり。

  • 地蔵菩薩立像 奈良・秋篠寺
  • 男神坐像 京都・稗田野神社
  • ◎ 大将軍神坐像 京都・大将軍八神社
  • 女神坐像 滋賀・日牟礼八幡神社
  • 女神坐像 京都・松尾大社
  • 男神立像(立山神)
  • 女神坐像(二躯) 京都・市比賣神社
  • ◎ 善妙神立像 白光神立像 獅子・狛犬(二対) 京都・高山寺
  • 男神立像(摩多羅神) 静岡・鉄舟寺
  • ◎ 板絵神像 京都・宝積寺

(◎=重要文化財)


立山神像や摩多羅神像(といわれる男神像)などが初見だった。
では、いくつか感想を。


大将軍神坐像は大将軍八神社に大量に伝わる神像のひとつ(武装像)。出来をみると、群像のうちでは素人の作か?折れた刀を手にしていたのが面白い。戦闘後の姿なのかもしれない。身体をみると、右足の先、左足(半跏踏み下げ像だったのだろう)を欠いており、顔もいくらか朽ちている。はげしい戦いだったようだ。


男神立像(立山神)は、所蔵者が明示されないので個人蔵か。銅造、天部(帝釈天)風の姿。
説明によると、富山・立山博物館の像と類似しているという。但し温和な表情である点が、立山博像とは違うのだそうな。鎌倉期の作とのことだが、穏やかな面貌や彫りの浅さ、体躯の奥が薄いつくりなどは、平安後期風だと思った。


静岡・鉄舟寺男神立像。解説によれば―、寺伝では摩多羅神という。一方、台座裏の墨書銘(弘長元年・1261)では十二所権現の御正体とする。ただし装束は摩多羅神に近く、名称についてはなお検討の必要がある―、とのこと。束帯姿で、まな板のような框座?(四隅は丸くとる)に立つ。顔の表情は厳しく、彫りはなかなか鋭い。左足を前に踏み出し、身体も左に歪んでいる。


宝積寺板絵神像は展示中、唯一の絵画作品。傷みがはげしいが、本格的な絵。実際、専門の画師によるものらしい。三柱の束帯形、二柱の僧形が横に並んで坐す形式。写実的な姿は鎌倉時代らしく感じられる。弘安九年(1286)。


市比賣神社女神坐像は、おそらく前に京博の特別展でみたことがある。*1もと三神形式であったとみられるうちの二躯。脇のよりひとまわり大きい主神は、横たわる子供を抱くというめずらしい姿。胸元を大きく開き、乳房なのだろう、胸の肉付けもしてある。首を前に突き出し、脚部は低く抑え、上半身が大きくつくられている。

ススなのか(子供含め)全体的に黒ずんでおり、(焼け出されたように思われるのか)なんか怖いなーと最初みたとき思った。今回もやはりそういう印象を思い出したが、しばらくみていると、だんだん母性の温かさも感じられた。児童虐待だの親子関係だの問題の多い今日においては、神像という枠を超えてメッセージを訴えかける、意外と現代的な彫刻作品なのかもしれない。


高山寺善妙神立像白光神立像そして二対の獅子・狛犬は、湛慶の作と考えられる諸像。
昔行った展覧会*2の図録では、見開きで、同じ大きさに合わせた図版を載せていたから、像高は同じなんだなというイメージをもっていた。ところが久々に実物をみてみると、大きさにけっこう差があったから意外に思った。白光神像の本体は一尺ほどのようで、善妙神像はそれより一、二まわり小さい。また善妙神の方は台座も低い岩座なので(白光神は蓮華座にのるので全高も高い)、展示用の別の台にのせられて、白光神の高さとつり合いをとって並んでいた。

ヒマラヤの雪を象徴した白い神様・白光神と、対してカラフルな女神・善妙神。善妙神は衣のカーブの具合なんか絶妙に思えた。彩色も鮮やかでよい。

両像に侍る獅子・狛犬は、チワワサイズだが堂々としている。これらにみられる、湛慶による穏やかな造形が、その後の日本の狛犬づくりに大きく影響しているとは、前年に知った。*3

*1:「神々の美の世界‐京都の神道美術‐」@京都国立博物館 8/10-9/20 2004

*2:「運慶・快慶とその弟子たち」@奈良国立博物館 5/28-7/3 1994

*3:「神像と獅子・狛犬」@京都国立博物館 1/2-3/26 2006