「プライスコレクション 若冲と江戸絵画展」@京都 その3

まあ、展覧会の感想については未完のものばかりなのだが・・・。いずれ書き上げようとは思うのだが何時になるやら。ひとまず今も巡回中である*1プライス展からやっつけようか。

若冲と江戸絵画展」コレクションブログ → http://d.hatena.ne.jp/jakuchu/


(06/11/04の日記のつづき)

「江戸の画家」

次は「江戸の画家」という章。浮世絵作品(すべて肉筆だったか)が並ぶ。
若冲などと比べると浮世絵は知らないことが多く、これまで実際に見ることもあまり無かったのだが、今回色々魅力的な作品に出合えた。


いちばん面白かったのは、河鍋暁斎「妓楼酒宴図」暁斎の作品はどれもよかったが、これは特に。明治に入ってからの作らしい。まあ扇子男のバカ面ったらない。その背後の衝立から、達磨が宴席を睨む。わかりやすい世俗対比のユーモア。その面白さは、作者の技量がたしかであるからこそのものと思う。しかしこの作品のポストカードが(作られて?)なかったのは残念。あればぜったい買ってたんやけどなあ。

ちなみに浮世絵展示品でポストカードを買ったのは、勝川春章「二美人図」、雅熙「百福図」、竹田春信「達磨遊女異装図」の3点。


ほかに挙げると、蹄斎北馬の「吉原俄図」。八朔から1ヶ月ほどの間、吉原では屋台が設けられ、俄(にわか)という即興の芸が披露されたのだそうな。書き割りやカブリモノ?の人たちがみえる、画面の下半分がその俄ということか。愉快な光景だ。人物の彩色の濃さに違いがあるのは、吉原内部関係者と一般町民(客)とを区別してるからかな。
同じ作者の「隅田川図」も不思議とひかれるものがある。蹄斎北馬は北斎の弟子とのこと。この淡い色彩が古きよき江戸のノスタルジーを感じさせるようだ。鏑木清方と似ているのかもしれない。


浮世絵には表装のデザインに凝った作品が多かったように思う(当初のものか、後世のものかはわからないが)。色々な文様で飾られていたり、どの作品か覚えてないが右上の方に大きく「女」と刺繍?されたものもあった。ポストカードでは画面のみで、これら表装が含まれないのはちと惜しい。

若冲と浮世絵の違いは

この展覧会、タイトルが「若冲と江戸絵画」だから、主催者サイドとしては伊藤若冲をメインに位置づけているのだろう。見に来る人の多くも若冲を目当てにしているだろうし、私もやらしい興味からではあるが*2若冲の絵がみられるから足を運んだのだ。ところが実見すると、若冲よりもむしろ江戸の浮世絵のほうに面白さを感じ、また発見するところも大きかった。
発見とは何か?
若冲と浮世絵とでは、「いまの風俗」を描くか否か、明確に異なっている点である。


浮世絵は文字通り浮世の絵である。描かれた当時の人物・風景等の風俗が主題とされる。浮世絵が私の目を楽しませるのは、やはり「当時」を生きた人々の活気やら何やらが伝わってくるからであろう。
その点、若冲はどうか。浮世絵とはまるで違った絵の描き方をしてるのは明らかで、題材にしても大きく異なるようだ。若冲は「いま」を意識的に描かなかったらしい。正確にいえば、「いまの風俗」を描かなかったということだ。

動植物に関しては入念な観察の上で絵画にして、彼ならではの面白さを完成させた若冲だが、一方当世風俗には興味が無かったという。以前京博の特集陳列*3若冲の「和人物図」という作品をみたが、その解説で「若冲は当世風俗を描くことを嫌い」云々、「この作品は若冲には珍しく日本の人物を描いたもの」云々とあったように記憶している。
我々が若冲の作品として思い浮かべるのは、やはり動植物画だろう。それは実際に若冲が好んで絵にした題材がそれらであったからなのだろう。思うに若冲作品は、浮世絵のような時代を写した美ではないが、デフォルメ、構図の妙、現代でも通用するデザイン性に面白さがある。そういう意味で若冲は先進的な人だったわけか。


また若冲と同じ部屋に展示されていた曾我蕭白についてもちょっと考えてみると。
蕭白若冲と比べて人物をよく描いた。グロテスクとも評される蕭白一流の人物画だ。しかしそれらの人物は日本人かといえば違う。ほとんどが寒山拾得等の中国の神仙である。
さらに拡大して考えれば、若冲蕭白を含む18世紀京都で活躍したアバンギャルドとかエキセントリックとかいわれる画家たちの大部分あるいは全体が、日本にある身のまわりのものよりも、中国に絵画の対象を求めまた憧れを抱いていたのかもしれない。
絵画の知識については不勉強なので、あくまでも個人的な感想ではあるが、これがプライス展での発見のひとつである。
(つづく)

*1:「プライスコレクション 若冲と江戸絵画」@九州国立博物館 1/1-3/11 2007

*2:06/10/29の日記参照。

*3:特集陳列「伊藤若冲」@京都国立博物館 2/16-3/27 2005