「プライスコレクション 若冲と江戸絵画展」@京都 その2

(10/29の日記のつづき)

会場入口で、作品解説の冊子が置いてあったのを取っていく。図版はないが、展示作品ごとに簡単な解説が書いてある。実際の展示会場ではキャプションをつけず作品名のみが示される。日本の歴史美術の展示では、あまり用いられない手法といえる。
解説を省く → 解説を読むために立ち止まらない → 人が流れやすくなる、というのがねらいか?いや、配布の解説を立ち止まって読んでりゃ変わらないか…。あえて解説をつけないことで、見る人を頭でっかちにさせず作品と向き合えるように、理屈ぬきに作品そのものを楽しめるようにするのが、本当の意図かもしれない。


図録は買わなかったのだが、以下とくに記憶に残った作品の感想を書いていきましょう。


最初の部屋は人が溜まってるし、さらっとみて次の部屋へ。
右手にあらわれたのは、長沢芦雪「白象黒牛図屏風」色彩は落ち着いたものだが、屏風いっぱいに描かれた巨大な象と牛にハッとする。唐突に、しかしそっと度肝を抜かれたって感じかな。


円山応挙「懸崖飛泉図屏風」。この展覧会のA4チラシおもてに使われてた絵だ。ポスターや電車の中吊りには、当然のように主役・若冲の鶏や虎がつかわれてたから、チラシをみたときは これも若冲?こんな絵も描いてたのか…? と違和感があった。これだけなぜ応挙…?実際に作品をみてみると、もやのなかに中景を隠して、遠景と近景をつよく対比させている。見事・・・四曲と八曲で組まれてるのもめずらしい。


勿体ぶって、というか、やがてやっと若冲登場。やはり気になるのは「鳥獣花木図屏風」である。
初めて目の当たりにする、若冲のマス目描き…。鳥と獣の大集合。何の動物かわからないようなのもいる。赤目で白い歯をみせてるのは…サルか?両隻とも、後方では青色の空間に鳥獣が点々といるが、これらは空に浮かんでるのか、水に浮かんでるのか?
不思議な絵だ。


先日S先輩の部屋に泊めてもらったとき、*1この作品に関して予習をしておいた。書棚にあった京博の特別展*2の図録をみせて貰った(というか勝手にみた)。私自身この特別展には行かなかったが、静岡県美の「樹花鳥獣図屏風」がこれに出てたということは、作品のインパクトも手伝って記憶してた。で、図録をみて、この特別展にプライスコレクションの屏風も出品されていたことと、「白象群獣図」という別の桝目描作品があることを知った。
図録の解説では作者比定についても当然触れられていた。メモを取ったわけでもないのでうろ覚えだが、ひとつの説が紹介されており、その内容は印章のある「白象群獣図」は確実な若冲の作品であるが、ふたつの屏風はただちに認められない、といったものだったように思う。
厄介なことに「花木」にも「樹花」にも署名・印章がないため、作者問題がややこしいのだ。


実物をみて感じた、私のとるに足らない意見を述べると…完成度の点からいえば「樹花」の方が「花木」より優れているようにみえる。もっとも「樹花」を実見したことはないのだが、こちらの方が全体に「締まり」があるようだ。「花木」がこれで完成した作品であるならば、両方が同一作者による作品だとはちょっと信じがたい。
ふたつの鳥獣屏風を比べてみて感じる違いは、いうなれば同じ「風神雷神図屏風」でも宗達のオリジナルと光琳の模倣とでは印象が違ってみえるのに似たようなものか。*3

だからといって「樹花」が若冲だと言い切れる知識を私は持ち合わせていないし、また「花木」が若冲ではないと決まったわけでもない、のではないか。「樹花」と「花木」がまったく関係なく別個につくられた作品であるはずはないし、「花木」が若冲の模倣作だとして、だいたい若冲一流のアバンギャルドの中でもひときわ特異な鳥獣屏風を、彼に少しもかかわりのない誰かが好きこのんでコピーするかなぁ・・・とも思います。


若冲はプライス展のメインなのだろうけれど、個人的には「鳥獣花木図屏風」だけで満足かな。
ちなみに、私が過去に観覧した若冲の展示でとくに面白かったのは、昨年の京博での特集陳列です。*4今年の春には「菜虫譜図巻」もみました。*5

若冲と同じ展示室に、曾我蕭白の作品もあった。
後日になって思うのだが、若冲蕭白が一緒に展示される相性ってよいのだろうか…?
(つづく)

*1:10/1の日記参照。

*2:「―没後200年― 若冲」@京都国立博物館 10/24-11/26 2000

*3:但し、私はまだ光琳風神雷神図屏風をみたことがないのですが…。

*4:特集陳列「伊藤若冲」@京都国立博物館 2/16-3/27 2005

*5:「18世紀京都画壇の革新者たち」@京都国立博物館(3/25-4/9 2006)。感想は3/27の日記参照。未完ですが…。