「仏像 一木にこめられた祈り」その2

(11/21の日記のつづき)
平成館入場。
京都・奈良の国立博物館の館内には無い、エスカレーターがあった。ちょっとデパートかホテルのようでもある。いっぺん最初から最後まで展示室をサーッとまわって、規模等を確認してからじっくり見ていこうかとも考えてたが、実際館内に入ってからは、順番に一部屋ずつみることにきめた。

第一章 檀像の世界

さて、第一章は「檀像の世界」。日本では自生しない白檀(ビャクダン)、あるいはそれに代わる材を用いた小像が8躯。それに加えて、本当は第二章の出品だが東大寺弥勒仏坐像も同室の最後に展示されてた。大きさがほかの檀像と同じくらいだからいっしょにしたのだろう。


これらの制作時期は中国・唐時代(7-8世紀)、あるいは奈良〜平安時代(8-9世紀)と推定されている。奈良時代から平安前期にかけての木彫像には、時代の特定が難しい作品もあるようで、中国製なのか日本製なのか明らかでないものもある。今回の出品目録をみてもそうだが、さいきんでは制作時期を「奈良〜平安時代」と、幅を広くとってみる場合も多いようだ。最初の部屋に展示される海住山寺十一面観音像、東大寺弥勒仏像なども、従来平安前期の作と位置づけられていたように思うが、*1今回は奈良〜平安時代の作品として扱われている。


展示の方法がちょっと変わっていた。
ほかの歴史美術の展覧会では最初の部屋に入ったとき、挨拶代わりに(?)視野の中心に仏像が展示される場合が多いと思うが、今回は通路を真ん中にして、左右1躯ずつが向かい合うように立っている。像はすべて独立したケース内に展示される。
そして展示室が暗い。壁は暗色(濃紺?)、全体的な照明も極力抑えられた中、各展示ケースは明るく照らされている。文化財保護のために展示室の照明を抑えること自体はめずらしくないが、ここまで神秘的な雰囲気をつくった展示はめずらしいと思う。
尚、当展覧会の解説キャプションはすべて横書きだった(はず)だが、これも日本美術の展示ではめずらしい方だろう。


では作品の感想を(番号は出品目録による)。


※ 順番に一部屋ずつみることにしたと先述したが、第一章では観覧中に混雑が気になって、いくつかみて途中で次へ移り、最後までひと通り見てからもう一度最初に戻って鑑賞した。つまり第一章は後回しにしたわけだが、ここでは便宜上まとめて感想を書く。


混雑の中、最初にみたのは5 山形・宝積院十一面観音菩薩立像だった。大阪・道明寺の国宝の十一面観音*2かと思って近づいたら、これだった。背中にまわってみると衣がクロスしてる。(前期に展示されてた)20 宝菩提院の菩薩半跏像と同じ特徴やなーと思ったが、あとで図録をみたらそのことが指摘されていた*3。台座蓮肉にかかる衣も一木から彫り出しているらしいが、まあよくここまでつくったものだ。


1 東京国立博物館・十一面観音菩薩立像は唐時代(7世紀)の作。前に奈良博で催された談山神社の展覧会*4で展示されてたように思うが、私自身はそれに行かなかったので今回が初対面だと思う。展示の檀像はどれも同じような大きさではあるが、プロポーションや表現はそれぞれ異なって個性があるということは、今回一部屋に集まったのをみていてよくわかった。中でも、この像は際立って独特だ。足の甲が高い!2 山口・神福寺十一面観音菩薩立像は 1 と同じく唐時代だが、こちらは8世紀の作とされる。大学のサークルで山口に合宿に行く際、事前の情報集めでこの像を知ったが、このたび初対面。鼻から口にかけて欠損してる点が印象に残る。


3 奈良・与楽寺(広瀬) 十一面観音菩薩立像は、中国・唐の作か奈良時代の作かはっきりしていない。はて、(広瀬)って何だろう?図録の解説では現在奈良県広陵町の広瀬地区が管理しているとあるから、いわゆる無住のお寺で地元の人たちが守ってるってことなんでしょう。この仏さん、奈良博の「古密教」展に出てたのではないだろうか。*5 頭上面の表現がなんともめずらしい。現状では足先以下、台座が新しいものにかわっているが、別に保管される当初の台座も、今回いっしょに展示されていた。顔がなんだか、愁いを帯びた表情をしている。


7 奈良・霊山寺十一面観音菩薩立像は展示の檀像のうちでもっとも大きい。というか顔がでかい。頭上面もでかい。一方で腕はえらく細い。総じてバランスがおかしく、1 とはまた別の異様さ。インド・中国を経て伝わった檀像が、日本で独特の変化を遂げた姿なのか、なんというか土着的な感じがある。8 京都・醍醐寺聖観音菩薩立像は以前から知っていて何度か実見もしたが、やっぱりうるさいくらい刻まれた衣文が目立つ。足の甲は 1 のように高い。顔もけっこう個性的だ。下膨れで、目鼻口が真ん中に集まってる。


4 奈良国立博物館十一面観音菩薩立像に、6 京都・海住山寺十一面観音菩薩立像、それと17 奈良・東大寺弥勒仏坐像(第二章の出品)は、奈良博の本館展示でおなじみの作品である。しかし奈良博では独立型ケースの展示ではなかったから、今回像の背中までみられたのはよかった。「試みの大仏」として知られ、個性的な表現の東大寺弥勒仏は、背中も広くて味がある。どうせなら、図録でも側面・背面を写した図版があればいいなぁと思ったら、実際そういうのがたくさん収録されているではありませんか。これはスゴイ。

(つづく)

*1:例えば『カラー版 日本仏像史』では、東大寺弥勒像を9世紀初、海住山寺十一面像を9世紀後半の作としている。

*2:今回の特別展図録P41に図版あり。

*3:29 秋篠寺の十一面観音立像にも同じ表現がみられる。

*4:「大和の神々と美術 談山神社の名宝」@奈良国立博物館 2004/12/11-2005/1/23

*5:「古密教―日本密教の胎動―」@奈良国立博物館(7/26-9/4 2005)私はみにいかなかった。