愛をもとめる心

青樹の梢をあふぎて


まづしい、さみしい町の裏通りで、
青樹がほそほそと生えてゐた。


わたしは愛をもとめてゐる、
わたしを愛する心のまづしい乙女を求めてゐる、
そのひとの手は青い梢の上でふるへてゐる、
わたしの愛を求めるために、いつも高いところでやさしい感情にふるへてゐる。


わたしは遠い遠い街道で乞食をした、
みぢめにも飢えた心が腐つた葱や肉のにほひを嗅いで涙をながした、
うらぶれはてた乞食の心でいつも町の裏通りを歩きまはつた。


愛をもとめる心は、かなしい孤独の長い長いつかれの後にきたる、
それはなつかしい、おほきな海のやうな感情である。


道ばたのやせ地に生えた青樹の梢で、
ちつぽけな葉つぱがひらひらと風にひるがへつてゐた。

萩原朔太郎の詩である。

いつぞや、高村光太郎の「ぼろぼろな駝鳥」を打ち写したことがあったが(08/11/27)

それと同じく、高校時代の国語便覧の「近現代名詩選」に載っていたものである。

以前から気になる作品だったので、ここに打ち写した。*1

*1:引用にあたっては、三好達治選『萩原朔太郎詩集』(岩波文庫)を参照した。